不登校やひきこもり状態の時によくイメージ化して使われる「心のエネルギー曲線」があります。
心のエネルギーの状態の高低や揺れ幅、長さには個人差がありますが、誰にも必ず心のエネルギーを回復するときはやってきます。
いきなりどん底にはまり、いきなり回復するということはありません。
親御さんはこの時期がいつ来るかは分からないために、大きな不安を持っています。
しかし、子どもさんが「今どういう心の状態でいるのか」が理解できれば、その時期に応じた適切な接し方によって回復時期が早くなることもあります。
反対に心の状態を理解しないで一方的に指示や要求を出したとしても逆効果にしかなりません。
これは学校の対応も同じで、いわゆる段階を理解しないで「登校刺激」を続けることは心のエネルギーを低下させてしまうことになります。
責任感が強く熱心な教員ほど「早く学校へ復帰させたい」と考え、家庭連絡や家庭訪問などを繰り返すケースがありますが、心の状態に合った適切な対応をしていく必要があります。
親も待てないし、教員も待てていないのです。
「待てない」というのは、親や教員側の都合、言い訳です。待てないということは子どものことを信じ切れていないためです。
どんな結果になろうと子どもを信じ切ることができれば、待てます。
結果は子ども自身が出すしかないのですから、結果がでるまで待つことが親や学校のできることです。
確かに待つことは大変なことなのですが、親や教員のすべきことは無理して学校へ戻すことではなく、今の状態に合わせた「待ち方」をどうするか、「待っている間に何をするか」ということです。
「学校として何かしないといけない」「早く学校へ戻さないともっと大変なことになる」という考え方がますます子どもを苦しめていることを知ってほしいです。
そして、この期間は「何もしないで見守る」ということではありません。
親は親で学校は学校ですべきことはあるのです。
それぞれの期間、段階においてすべきことはあり、それは「登校刺激を与えない」ことも含まれます。
これについては、子どもが不登校になったら親ができる最善の方法に詳しく書きました。
自己決定ができた状態を回復といいます
そして、最も重要なことですが、「回復した姿」は必ずしも「学校へ復帰する」ことだけではないことも知っておくべきです。
「学校へ戻ったからよし」とするのではなく、「自分でどうするのか」という自己決定ができた状態を回復と考えます。
毎日元気で明るく過ごし、自分の道を自分で決めた姿を回復といいます。
決して親や教員がその道を決めて押し付けるようなことがあってはいけません。
その後、子どもは自ら決定した道へ進んでいきます。
そのときに、親や学校のできることは子どもの自己決定を認め応援し続けることです。
私はこの自己決定のことを「着地」と表現しています。
不登校やひきこもり状態とは「暗い先の見えないトンネルにじっとして」いて「出口」を探しているのではなく、「空の上で社会や人を眺め」ながら、どこに「着地」しようか考えて悠々と飛んでいる状態です。
つまり、着地できる心のエネルギーが貯まるまでグライダーのように漂いながら「着地点」を探しているのです。
なので、「着地点」が見つかるまではグライダーのように漂う期間が必要なのです。この間に大切なことは、子どもが安心して過ごせる居場所、環境を作っておくことです。
そして、不登校やひきこもりをマイナスと考えるのではなく、自立へのきっかけ、自己決定をするために成長している時期だとプラスに受け止めることが大切です。
親や教員に対して「学校へ行かないで自分で考えたい」「家にいていていつどこへ出ようか」という自己表現、自己主張できたことを認めてあげたらいいんです。絶対にそれを否定することはしてはいけません。
認めるとは信じること、信じることができれば「着地点」が見つかるまで待つことができます。
ただ待つだけではなく、段階に応じた適切な関わり方ができれば、子どもは必ず「着地点」を見つけます。
その自己決定のひとつが学校に行く場合もあり、その他の場所に行く場合もあり、家で学ぶことだってありうるのです。
さらに、不登校にしてもやひきこもりにしても、ネガティブな情報ばかり流されていることが問題です。
確かに、「明日はどうしよう?」と今今の切羽詰まった思いは分かりますが、もっと広い視野で見ていく必要があります。
もっと明るい視点で情報発信していく必要があります。
「着地点」も「着地方法」もみんなちがうのですから、そこを見ていったらいいんです。
子どもの自立を目標とするのであれば、学校へ行く自由もあり、他の場所で学ぶ自由もある。
生き方だってみんなが違うのが当たり前。
そのどれを選んでも正解なんです。
この「心のエネルギー曲線」の中に「登校できる状態」という緑色のラインがありますが、私はこれには同意できません。というかあまりにも限定されたゴール設定です。
教育委員会としては「学校復帰」のことを回復と意味づけているためですが、回復の姿のひとつの形が「学校へ行く」ことです。
なので、必ずしも「学校へ戻す」ことが目的ではなく、自己決定、選択肢のひとつが「学校へ行く」ことと見るべきです。
子どもの自立を目標とするのであれば、学校へ行く自由もあり、他の場所で学ぶ自由もある。そのどれを選んでも正解だという表現方法が正しいです。
自己決定するための選択肢はたくさんあるのですから、それらも含めてこの曲線の中に表現すべきです。
参考:心のエネルギー曲線(佐賀県教育センター)
※私は「登校」という表現にも異議をとなえます。
「登園」「登校」ではなく、「通園」「通学」が正しい表現です。
子どもが学校へ行く道のことを「通学路」とはいっても「登校路」とはいいませんよね。
だから、便宜上使ってはいますが、本質的には「不登校」というのも不適切な表現です。
それでもやっぱり学校に行かないと不安ですか?
学校にいくか行かないかは本人が決めることですが、本人も親御さんも「学校に行かないとこのあとどうなっちゃううんだろう?」という不安はあると思います。
特に中学校に行っていない場合は高校進学がどうなるのかという不安が大きいと思いますが、中学校に行っていなくても公立私立すべての高校で受験することはできます。そして、進路の選択肢はたくさんあります。
高校受験や進路については「中学校に行っていなくても高校に行けますか?進学できますか?」に詳しく書きました。
鳥取県にはさまざまなスタイルの高等学校・専修学校、フリースクールがあります。
また最近では、フリースクールによっては在籍校の出席日数にカウントされ、そこで定期テストを受けて評価を受けることもできるようになっています。なので、いわゆる内申書につけられる出席日数を心配することもありません。
フリースクールでは通信教育で単位を取得して高校卒業の資格を得たり、高卒認定(高等学校卒業程度認定試験)を受けて大学・短大・専門学校の受験資格を得ることができます。
これについてはどのような扱いになっているか直接フリースクールに問い合わせてみるのがいいです。
また、中学校の進路相談では、すべての高等学校・専修学校を紹介してほしいにも書きましたが、現状では中学校での進路相談においては主要な高校のみしか扱われていない場合が多いです。
どこに進んでいくか決めるのは親ではなく、子ども本人です。
鳥取県にも県立・私立・高等専修学校などがあります。そして、全日制、定時制、通信制とさまざまな高校を選ぶことができます。全日制の高校だけが進路ではないことも知っておくといいです。
学校に行かないとその先が心配になることは理解できます。しかし、それで将来への道が消えてなくなるわけではありません。また、学校に行きさえすれば将来が安心だとも言えません。
子どもの自立を目標とするのであれば、学校へ行く自由もあり、他の場所で学ぶ自由もある。生き方だってみんなが違うのが当たり前。
そのどれを選んでも正解なんです。
自分の行く道を自分で決められるようになることが「不登校の解決」なのです。