鳥取県では公立高校の入試が終わりました。
この時期は生涯の中でも最も心の動きが大きいときだと思います。
中学校に行っていなかった子や親御さんは特にそうだと思います。
文科省は「不登校は問題行動ではない」「社会的に自立することを目指す」といっていますが、現実には不登校の児童生徒は制度上の不利益を被っています。学校に行っていないことに罪悪感を感じたり、保護者の方が責任感を感じたりする「心の不安感」だけでなく、現実として希望する進路(ここでは高校受験)に進めないケースが少なくありません。
不登校についての文科省の考え方
はじめに不登校についての文科省の考え方を確認しておきます。
・不登校への対応の在り方について
1.不登校に対する基本的な考え方
1 将来の社会的自立に向けた支援の視点
不登校の解決の目標は,児童生徒の将来的な社会的自立に向けて支援することであること。したがって,不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく,「進路の問題」としてとらえ,本人の進路形成に資するような指導・相談や学習支援・情報提供等の対応をする必要があること。
不登校への対応の在り方について
・不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)
1 不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方
(1)支援の視点
不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。また,児童生徒によっては,不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で,学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。
不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)
・出席扱い等の要件
「また,不登校の児童が適応指導教室等学校外の施設において相談・指導を受け,又は自宅においてIT等を活用した学習活動を行ったとき,そのことが当該児童の学校復帰のために適切であると校長が認める場合には,出席扱いとすることができる。この場合には,出席日数の内数として出席扱いとした日数及び児童が通所又は入所した学校外の施設名や自宅においてIT等を活用した学習活動によることを記入する。」
文科省 不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知)
不登校の子どもにとって最も重要なことが「出席日数」です。
これがいわゆる高校受験の際の内申点に影響するため、フリースクールなどの民間施設に行くことで「出席扱い」になるかどうかが大きなポイントとなります。
鳥取県教育委員会では、不登校等の特別な支援を必要とする児童生徒への効果的な支援に向け、「民間施設のガイドライン」を設定しています。
不登校児童生徒を指導する民間施設のガイドライン(鳥取県教育委員会小中学校課)
平成30年度鳥取県フリースクール連携推進事業の補助金交付申請
不登校の子どもは高校入試の際に大きな差をつけられている
学校に行っても行かなくても15才の3月には誰でも義務教育が終了する。
「中学校卒業」という「学歴」がつく。
つまり、中学校に行っても行かなくても、3年間履修した学習が身についていない場合でも「自動的に修了」となります。
すべての子どもが卒業、「修了」となります。
しかし、中学校の履修過程を「修了」しても、高校受験の際は、いくら本人に高校入学の学力があっても入学が認められないケースが多い。というか、ほぼ合格できません。
それは、中学校の出席日数や学校で受けた定期試験の点数などによって決まる「内申点」のウエートが高いためです。
高校受験で、中学校へ行っていなかった子は学校へ行っていた子よりも入学試験の点数がよかったとしても、内申点が加算されないために不合格となってしまう。
これは、あくまでも「文科省が認可した学校に行っている」ことが前提にある入試制度です。
子ども本人の学力での評価ではなく、「中学校に行っていたかどうか」で決められる制度となっています。
だから、いくら子ども本人が「公立高校に行きたい」と思って、一生懸命に勉強して入試で高得点をとっても合格はできないのです。本人の勉強の頑張りがこの制度では認められないということです。
文科省が「児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す」というからにはこれを認めるべきです。
これは「『学校復帰のため』に適切であると校長が認める場合には『出席扱い』とする」とかなりの矛盾があります。
つまり、現状では高校に入学するためには2つの条件がいります。
・まずは文科省が認めた学校に「きちんと行く」こと
・入学試験でいい点数を取ること
この2つの得点を総合して合否が決められています。
文科省も「不登校は問題行動ではない」という通達を全国の教委や学校向けに「通知」を出していますが、現実には「不登校の子どもは高校入試の際に大きな差をつけられている」という不利益を被っています。これは制度上の不備であり、意図して作り上げられた差別だといえます。
これを私は、「文科省や教育行政は言うこととやっていることが全く逆だ」といっている理由です。
このように、中学校に行っていなかった子の前には高校進学という進路選択に大きな壁が立ちふさがっています。
これを改善していくことが「不登校は問題行動ではない」「社会的に自立することを目指す」ことを事実で表すことになるのではないでしょうか。
たったひとつの「ものさし」で比べるから差別が生まれる
病める世相の心療内科(14)不登校の子供を救う学校という記事を読みました。
たったひとつの「ものさし」で比べるから差別が生まれます。
人の数だけ「ものさし」があれば差別は生まれません。
学校のように同一年令の集団の中で、みんなが同じことをして一斉に競わせて、たったひとつの「ものさし」で評価したら、そこに優劣が生まれます。
優劣で価値判断をするような仕組みでは公平なんて不可能です。
人はみんな違うのだから、差があるのは当たり前です。
だから、「ものさし」を増やしたらみんなに価値があることがわかります。
こちらの関連記事もお読みください。
不登校は問題行動ではない 「義務教育」は「子どもが学校へ行く義務」ではない
中学校に行っていなくても高校受験に合格できるのか?
不登校児童生徒への支援の在り方を「通知」で終わらせないために